元・陸上幹部自衛官の13年間の奮闘記

ダメダメ大学生だった元陸上自衛官の13年間の自衛隊での経験や教訓を共有するブログ

【元空挺隊員が語る】陸上自衛隊第1空挺団での幹部自衛官としての勤務シリーズ⑨ 〜2度目の訓練検閲に向けて〜

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陸上自衛隊第5旅団HPより引用)

 

こんばんは。

元・国防男子の大吉です。

 

今日は、僕が第1空挺団での勤務で経験した2回目の訓練検閲に向けての準備についての記事を書きました。

 

前回の訓練検閲から約2年後に実施される訓練検閲。

新しい中隊長も着任し、やっと中隊として機能し始めた。

しかし、新たな幹部の補充は無く、暫くは中隊長と僕の2人で中隊を回していかなければならなかった。

 

相変わらず幹部の数は不足していたが、

僕は前回の訓練検閲のリベンジに燃え、検閲に向けて徹底的に部隊を練成をした。

 

前回の訓練検閲に関する記事です。

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次の訓練検閲は“防御”想定?

次の空挺団の訓練検閲が1年後に差し迫ったくらいの時期のこと。

「次の訓練検閲の課目は「防御」なので、しっかりと準備をしておくように。」と空挺団本部から指示があった。

 

「防御」というのは、簡単に言うと、

事前に陣地を構築して敵を迎え撃つ戦術

 

えっ?

空挺作戦で防御??攻撃じゃなくて?

 

物量が圧倒的に不足する空挺作戦においては、陣地構築資材が殆ど確保できない。

こんな状況で、防御をすることは圧倒的に不利

そのため、空挺団としてもこれまで防御訓練をしたことが殆ど無かったようだ。

もちろん、僕の所属する中隊としても初の試みだった。

 

しかし、どんな任務が付与されるかわからないため、

防御訓練も含めて必要な訓練練度は維持しておかなければならない。

 

空挺団で防御想定をやるにあたり一番きつかったのは、

部隊でノウハウが全く無かったこと。

空挺団にずっといた上級陸曹に聞いても、やったのはずいぶん昔で覚えていないらしい。

もちろん、中級陸曹や初級陸曹も経験したことがなかったので誰もわからなかった。

 

空挺団が創設されて数十年経過しているのに、防御陣地構築のノウハウが全く無いってどういうこと??

 

そして、僕自身も攻撃想定はやったことがあるが、防御想定はやったことがなかった。

 

どうやって防御陣地を構築すればいいのか?

 

ここから始めれなけれならなかった。

 

陸上自衛隊陣地構築の教範を読み、

同期に電話して防御陣地に関する訓練資料をもらったりして、

どうやって陣地構築を確立していくかを検討した。

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陸上自衛隊第5旅団HPより引用)

 

陸上自衛隊の教範には、防御陣地の設計図が記載されたものがあったが、

それは、大きな機械力を持った師団や旅団クラスのものばかり。

よって、教範に記載されている内容や同期から貰った資料はそのままは使うことができなかった

 

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陸上自衛隊第1師団Facebookより引用) 

 

空挺作戦は、物料が圧倒的に不足している中での作戦。

上の写真のようなショベルでガリガリやって貰えればかなり楽なのだが、そんな機械力も当てにできない。

装備も圧倒的に脆弱。

 

こんな状況だったので、

空挺団の中隊の特性に合った陣地を一から考察し、

自分たちに合った陣地構築要領を確立しなければならなかった。

 

でも、陸上自衛隊の教範にも記載されていないことを新しく作り上げる

とてもやり甲斐のある訓練だった。

 

まずは、習志野駐屯地近傍にある習志野演習場で何度も試行錯誤する。

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陸上自衛隊第5旅団HPより引用)

 

空挺団は機械力が不足しているので、

陣地構築はスコップでの手掘りが基本。

 

土嚢(どのう)を大量に使用して

敵の砲弾に耐えることのできる陣地を構築しなければならない。

 

ただ手掘りで陣地構築するだけでも、結構きつい

100km行軍後、すぐに手掘りで陣地構築・・・・

 

しびれます!!

心が折れそうになります!!

 

疲労困憊の中、隊員たちの尻を叩いてドンドン穴を掘って

陣地を構築しなければならない。

 

「小隊長、陣地構築終わりました!」

 

「これで大丈夫だと思うか?」

「本当にこの陣地で敵の砲弾から身を守れるのか?」

 

班長に問いただす。

 

防御陣地に「完成」はない。

作戦間、強化し続けなければならない

防御陣地は、自分たちの命を守るための要塞

強化すれば強化するほど、自分たちの生存率は高くなる

 

隊員たちは100km行軍間も殆ど寝ることなく歩き続けている

体力的にもかなり苦しいのはよくわかっている・・・

でも、そこで妥協させてはいけない

 

例え訓練だとしても、陣地構築を妥協することは自分たちの死を意味することを隊員たちに感じてもらわなければならなかった。

陸上自衛隊は、海上自衛隊航空自衛隊と比べて国土防衛に関する実オペレーションの機会が圧倒的に少ない

つまり、緊張感が全然違う

海・空自衛隊は、領海・領空侵犯に対して常に侵犯国に対峙してオペレーションを実施しているが、陸上自衛隊のオペレーションは、戦争状態を意味する。

だから現在の日本では、陸上自衛隊において国土防衛に関してのオペレーションは、大陸弾道弾対処のPAC–3の警護くらいしか無い。

よって、陸上自衛隊の訓練では、「訓練のための訓練」にならないように計画しなければならない。

常に実戦を意識して訓練をしなければ実相とかけ離れ、緊張感の無い訓練になってしまうからだ。

 

陣地防御での強固な陣地構築の大切さを教育するために、大東亜戦争時の「硫黄島の戦い」についての戦史教育も実施した。

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そして、なんとか訓練検閲本番までに自分たちの防御陣地構築要領を確立し、その構築所要時間を含めたノウハウを作り上げることができた。

千葉の印旛沼や富士山で行軍訓練

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陸上自衛隊公式HPより引用)

 

そして、行軍訓練。

空挺団の訓練検閲においては、 行軍訓練が一番のネック

行軍は、単なる徒歩での作戦地域への移動に過ぎない。

行軍終了後から、本格的な作戦が始まる。

 

このため、行軍はできるだけ良好な状態で歩き終わらなければならないのだ。

そして、行軍中に落伍者を出してしまうと人数が少なくなり後の作戦に影響を及ぼしてしまう

だから、部隊の徒歩行進能力を特に重視し、

行軍訓練は次の訓練検閲までに3回計画して臨んだ。

訓練検閲に向けた1回目の行軍訓練

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(出典:https://www.jalan.net/kankou/spt_12211cb3530116105/photo/?screenId=OUW2201

 

新中隊長も着隊したことから、まずは駐屯地から近場の千葉県の印旛沼(いんばぬま)の周りで行軍訓練を計画した。

距離は30kmくらいから始める。

重量物を持ってアスファルトの上を歩き続けたので流石に足が痛くなったが、

このくらいの距離であれば景色を楽しみながら行軍できた。

 

ここで、背嚢(はいのう。自衛隊で使用するリュックサックのこと。)への荷物の入れ方や背嚢の背負い方等について調整し、少しでも楽に歩けるように研究した。 

訓練検閲に向けた2回目の行軍訓練

次は、静岡県東富士演習場に行って50km行軍訓練から防御陣地構築までの一連の行動について訓練検閲を想定した訓練を実施した。

 

このときの訓練は冬場の行軍だったので、いつもと状況が違っていた。

冬場の東富士演習場夜通し行軍するのだ。

演習場には雪がまだ残っていて、道路は凍結している。

滑ってコケてしまう隊員が複数いた。

夜間は月齢がかなり暗く道路も高い木に覆われているので、真っ暗

周りが殆ど見えない

隊員の鉄帽の後頭部に付けているケミカルライトの小さい明かりだけを頼りに前方の隊員に付いて歩いていく。

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(出典:http://sabikiman.blog.fc2.com/blog-entry-349.html

 

作戦間は、基本的に懐中電灯は使用しない

使用する際には、遮光をして光を漏れなくするか、

赤や緑色の視認しにくい色を使用するのだ。

 

そして、このケミカルの光が眠気を誘う

前の隊員が歩くたびに、後頭部につけたケミカルが上下左右に揺れる。

真っ暗闇で、黄色いホタルのような光を見ているとだんだん眠くなってくるのだ。

 

道路は凍結して滑るし、標高1000m以上の所を歩いていた。

道路を外れてしまうと崖から転落してしまう恐れがあるので、

絶対に寝ることはできない

 

必死に眠気を我慢しながら歩き続ける。 

 

そんな中、一番重要なことは休憩時に隊員の状態を確実に掌握すること。

各班長や最後の隊員には、自分の部下や武器を掌握するように指示をする。

そして、状況を報告させる。

中には、疲労と睡魔のため小銃を置きっぱなしにして歩き始める隊員休憩中に寝てしまって置いて行かれる隊員がいるからだ。

 

冬場でとても寒かったため、歩いている間はそれほど苦痛ではなかった。

寒くて歩きやすかったためか、自然と行軍のペースも上がった。

休憩のときは汗でシャツが濡れしまっていたので、それが寒くて苦痛だった。

 

検閲本番は真夏だが、冬の厳しい気候の中で訓練するのはいい経験だった。

良い訓練ができた。

訓練検閲に向けた3回目の行軍訓練

次の行軍訓練は、5月下旬の比較的暑い時期で距離は80km

そして、検閲前の最後の訓練

 

演習場内ばかり歩くのは飽きてしまうので、

民有地や公道を使用した訓練も計画した。

 

公道で小銃を携行して訓練をする際は、警察への申請が必要となる。

 

そして、この時期は多くの部隊が訓練を計画しており、演習場を確保することが難しい

訓練に先立って、富士学校で行われる東富士演習場演習場調整会議に参加して、他部隊との訓練地域が競合しないように宿営場所や状況現示の時間などについて綿密に調整しなければならない。

 

演習場調整会議に参加をして調整していても、僕たちが宿営地として入る予定だった場所に他の部隊が既に展開していた。

大部隊がすでにテントを展張してしまっていたのだ。

 

えー、何で??

 

すぐに展開している部隊の担当者の3等陸佐様のところに行って、

どうなってるんだ?と確認する。

 

でも、2等陸尉という初級幹部の分際で、

「テントを全て畳んで他のところへ行け」とは言えず、

泣く泣く別の場所を探して中隊の宿営地を設営した。

 

これだけで疲れてしまったが、何とか宿営準備を終わらせて訓練を開始。

 

静岡の越前・黒岳を含む東富士演習場での行軍訓練。

標高約1,500mの越前・黒岳を登って下山後、

富士山の麓から標高2,000mくらいまで登るコース。

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(出典:http://view-web.com/walking/?p=396

越前・黒岳は高低差が激しく、岩がゴツゴツしていて重量物を担いでの登山は足がかなり疲労する。

場所によっては、木の根っこに捕まりながら登らなければならない場所もあった。

今回のコースはかなり体力的にきついコースを計画したが、

前回に50km行軍を経験していたこともあり、

きついながらも訓練参加者全員が80kmを歩き切ることができた。

 

このかなりきついコースを経験したことにより、かなり自信を持って訓練検閲に臨むことができた。 

空挺団にとっての100km行軍とは? 

なぜ、空挺団では演習で100km以上の行軍をするのか?

 

実は、空挺作戦上は100km以上も行軍をすることは想定されていない。

 

訓練では、隊員たちを疲労させるために100km行軍をする。

極限の状態まで追い込んだ訓練するから訓練の意味があるのだ

そして、実戦ではそれくらいの疲労感、いやそれ以上の厳しさがあることも想定されている。

 

空挺団のような殆どの隊員がレンジャーバッジを持っている部隊では、普通の部隊がやっているような40km行軍くらいでは楽勝だから訓練にならない。

楽な訓練で得られるものは少ない。

ただ、消化して終わってしまう場合もある。

 

不思議なもので、いつも100kmくらい歩いていると40kmや50kmの行軍がものすごく短く、楽に思えるのだ。

 

厳しい訓練の中で、

極限の状態に追い込まれたときに自分がどう行動するのかを知ること

苦しい中で何を感じたかが重要なのだ。

 

途中で力を抜いて楽してしまう人間なのか?

それとも、そこから更に頑張れる人間なのか?

 

体力的、精神的に極限の状態では、自分の本性が出てしまうもの。

その中で、如何に自分の心に生じる甘えを排除して克己できるか。

その積み重ねにより人間として、そして陸上自衛官として大きく成長していくことができるのだと思う。

最後に

僕にとって空挺団での2度目の訓練検閲に向けて、綿密に準備を進めることができた。

 

心掛けたことは、

  • 本番で隊員たちに失敗させないようにあらゆる事態を想定して全力で準備をすること
  • 訓練中は一切妥協をしないこと

 

もし訓練検閲本番で失敗してしまったら、

原因は幹部自衛官としての僕のマネジメント能力不足

 

個人や部隊の訓練練度を本番までにMAXとなるように持っていかなければならない。

そのためには僕一人の力では不十分で、隊員たちの協力が絶対的に必要。

そして、隊員たちの協力を得ながら同じベクトル方向へ向かわせるために、どのようにリーダーシップコミュニケーションをとりながら、情熱を伝えていけばいいのかについて、この検閲への準備期間に身をもって学ぶことができた。

 

さあ、想定されるシナリオは訓練した。

後は本番の訓練検閲の時を待つのみ!

 

でも、想定外のことはいつも起こりうるんですよね・・・

 

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最後まで読んでいただきありがとうございました。

今日も皆様にとって良い一日となりますように!

 

元・国防男子 大吉