(陸上自衛隊公式HPより引用)
おはようございます。元・国防男子の「大吉」です。
今日は、幹部候補生学校での生活 〜非常呼集訓練編〜 についてお伝えしたいと思います。
油断をしてしまったある候補生が洗礼を受けた話です。
ある夏の日の出来事
「はっ!!」いつもと違う目覚め。時間は、0450頃
陸上自衛隊の各駐屯地を始め、幹部候補生学校の起床時間は、0600。
敏感な僕は、いつもと違う只ならぬ嫌な雰囲気を感じて目が覚めてしまい、ベッドの中で毛布に包まり、携帯電話でニュースの記事を読んでいた。
すると、
コツ、コツ、コツ・・・、コツ、コツ、コツ、コツ・・・
コツ、コツ、コツ・・・
居室の隣に面した廊下で、3名くらいが歩く足跡が聞こえる。
コツ、コツ、コツ、コツ。
・・・・・・・・・・
1名の足音は、居室のドアの前で止まった。
他の同部屋の候補生は、まだ皆寝ているようだ。
(誰かな?)
居室のドアの方を見ると、ドアのガラス部分から居室を覗き込んでいる人がいる!
でも、ぼやけているのでよくわからない。
(当直の教官が巡察に来たのかな?)
ぼやけてよくわからないが、ちらっと、シルエットの腕の辺りに赤い腕章が見えた。
(やばい!教官だ!なぜこんな時間に見回りに?)
僕はすぐに、毛布を被り寝たふりをした。
(どうした!?これから何かが始まるんだろうか・・・・)
ドックン、ドックン、ドックン、ドックン・・・・・
目を瞑って、これから起こる出来事に不安と恐怖を感じながら、冷静にならなければと一生懸命気持ちを落ち着かせる。
高鳴る心臓の鼓動に合わせて、フランスベッドの頭上の小物入れの引き出しの扉が、カタ、カタと音を立てている・・・・
(いつ、来るんだ?・・・・・・・)
「ぱらぱら、ぱっぱーぱーー。 ぱらぱら ぱっぱぱーー」
とき、0500。
いつもと異なる、初めて聞くラッパの音。
「候補生、非常呼集〜」「候補生、非常呼集〜」という全館放送とともに、準備すべき装備品や小銃を搬出する旨などが放送された。
(キターーーー!!!!!)
静かな朝が、一瞬にして慌ただしく、緊張感溢れる戦場に変わった。
付教官が居室のドアを開けて、真剣な表情をして入ってきた。
付教官 :「急いで、布団を畳めー!」「5分以内で準備しろー」「早く、早くしろー!」「オイ!K候補生、遅いぞ!」
みんな、まだ何が起こったのかが理解できていないようだ。
何が何だかわからないまま、とりあえず、全館放送で示されたとおりの準備をする。
まだ脳が起きていない状態だが、止め処無く付教官の怒号が続く。
急き立てられながら、全力で布団を畳み、着替えをして、示された装備品を準備。
「何を準備するって言ってたっけ?」居室内の候補生同士で、放送で定められた装備品を確認しあって、準備を進めていく。
T候補生やその他の準備が早い候補生が遅い候補生を助けながら、的確に指示を出していた。
(すごい!こういう切羽詰まった時にも、全館放送で示された背嚢(はいのう)入れ組品をきちんとメモをし、みんなに指示を出している。流石だ。僕も早く自分の準備を済ませて、同期を助けてあげなければ・・)
まずは、それぞれの区隊毎に居室のすぐ隣の廊下に並んで点呼(てんこ)。
付教官が鬼の形相で、候補生の一つ一つの動作を注視していた。
(ドキドキ・・・)
(これからどんな厳しい訓練が始まるんだろう・・・)
そんな中、
こんな緊迫した状況で、隣の区隊でその事件は起きてしまった・・・
整列が完了した僕達の区隊は、隣の区隊の準備状況を高みの見物。
なんか隣の区隊がザワついている・・・
隣の区隊当直が、「ヤバイ!!H候補生がいないんだけど!誰か知っている者はいるかぁー?」「H、どこへ行ったー?」と必死で叫んでいる。
どうやら、隣の区隊の候補生が1名、行方不明らしい・・・
(脱走したのかな? それともトイレでも行ってるのかな?)
隣の区隊の付教官は、入り口のドアから居室内の候補生の動作の状況を見ながら、顔の表情が険しくなり、今にも怒りが爆発しそうな状態。
僕たちも緊張状態であったが、隣の区隊の危機的状況が気になってたまらない・・・
隣の区隊の候補生は、ほぼ整列が完了しつつあり、残りの学生がまだ一生懸命準備をしているようだ。
そこへ・・・・ひょっこり。
廊下のすぐ横にあるトイレの出入り口から血相を変え、顔を真っ赤にしながら自分のパソコン(※現在は、私物のパソコンの持ち込みは禁止されているが、当時は、私物のパソコンを使用して課題をしていた。)を開いたまま、イヤフォンをぶら下げ、自分の居室へ急いで飛び込んで行くH候補生。
居室のドア付近に仁王立ちの付教官の後ろを、H候補生は申し訳なさそうに通過する。
付教官がH候補生を見つけて、問いただす。
付教官 「おいっ、H! 今までどこに行ってたんだ!」
H候補生 「はい!お腹が痛かったため、トッ、トイレに行っていましたー!」
付教官 「パソコンを持ってかぁー!」「何をしていたんだ!」
(付教官、そこの詳細はあまり突っ込まないであげて。。。)
こんな時にパソコンを持ってトイレに籠もっているとは・・・なんと、不運なことか。
この後、H候補生がどうなったのかは、ご想像にお任せします。。。w
その後・・・
示された装備品を背嚢に全て入れて、武器を搬出して、急いで隊舎の外へ。
次は、「隊容(たいよう)検査」。
隊容検査とは、示された装備品がしっかり準備できているか、服装はしっかりと着こなされているか、すぐに出動できる準備ができているか等をチェックする検査のこと。
付教官:「背嚢の中の入れ組品を出せ!」
そんな切羽詰まった状況での準備なので、当然、装備品を忘れてしまう候補生が出てくる。
付教官:「おい、O。何で水筒に水を入れていないんだ?」
O候補生:「すみません! 入れるのを忘れていましたー!」
一人のミスは、全員のミス。
付教官:「お前ら、中弛みか?始まって、5ヶ月位経つけど、最近、気が緩んでるんじゃねーのかっ!」
「腕立て伏せ、よーい。はじめっ!」
(陸上自衛隊HPより引用)
延々と区隊全員での腕立て伏せの「反省」が続く。
いつ終わるかわからない腕立て伏せほど、キツイものはない。
かなりの悲鳴が聞こえたが、何とかやり終えた。
やっと、終わった・・・
(さあ、これで装備品を片付けて、朝食を食べに行けるぞ。)
でも、そんなに甘くはなかった。
背嚢を担ぎ、銃を持って、区隊まとまっての「ハイポート(小銃を体の前方に保持し、掛け声を出しながらひたすら駆け足)」へ突入。
「いっち、いっち、いち、にー」「ソーレ!」
「いっち、いっち、いち、にー」「ソーレ!」
「せいきょー(精強)!」「1区隊!」
起きたばかりで、朝食も食べていない状態。
夏真っ盛りの朝で、日が登ってきて、次第に気温も上昇してきた。
しかも、いつ終わるかもわからない・・・
どんどん同期が悲鳴をあげながら、一人、二人と列から遅れていく・・・
遅れた同期に、その他の同期が励ましの言葉をかけながら、何とか隊形を保持しようと頑張っていく。
「いっち、いっち、いち、にー」「ソーレ!」
「いっち、いっち、いち、にー」「ソーレ!」
「せいきょー(精強)!」「1区隊!」
「せいきょー(精強)!」「1区隊!」
・・・・・・
数十分程度の時間だったが、かなり長い時間走っているように感じた。
地獄の非常呼集訓練は、やっと終わった。
人間って肉体的・精神的に追い詰められた時に、本性が出てしまうんです。
・ 責任を誰かに押し付けてしまう。
・ できない人に文句を言ってしまう。
・ 見られていないところで楽をしてしまう。
・ 我慢ができずに、泣き言を言ってしまう。
・ 途中で投げ出してしまう。
苦しい場面に直面した時、部下はリーダーの言動を見ているもの。
・ 狼狽せずに、冷静な状況判断ができるか?
・ 苦しい局面でも、部下のことを考えてくれているか?
・ この上司は、信頼するに足る人間か?
・ 自分の命を預けられる人物か?
こんな人間力を向上させるような教育を受けれるのは、自衛隊だけ。
幹部候補生学校って本当に楽しいところだと思いませんか?
陸上自衛隊幹部候補生学校での生活 非常呼集訓練編でした。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
今日も、みなさんにとって良い1日でありますように。
それでは、また。
元・国防男子 大吉